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――まずは、『本業』が生まれた経緯からお聞かせください。
「この本は『日経エンタテインメント!』の連載をまとめたものだけど、編集長と番組で共演したときに自分から企画を持ちこんだんですよ。“タレント本のコーナーをつくりませんか?”って。なぜかというと、どうしても紹介したい本があったから。山城新伍さんの『おこりんぼ さびしんぼ』という、若山富三郎さんと勝新太郎さん兄弟のことを書いた評伝で、文庫化の予定もないまま絶版になっている。オレはこんな名著はないと感動したから、存在を知らしめればこの本のすばらしさが浮かび上がるはずだと思って」
――『おこりんぼ さびしんぼ』をはじめとして、本書で紹介されたすごい人たちの逸話はファンでなくても面白いと感じられます。
「文芸評論家の斎藤美奈子さんが言うように、タレント本は昔でいう『伝記』なんだよね。あまり読書をする機会がない人にとっては目指すべき『偉人伝』であり、人生で最初に出会う一冊になることもあり得る。『本業』はその美点をくみとって、タレント本の知られざる部分を引き出したガイドブックなんですよ。だから単行本にするときにかなり加筆して、一冊の本の紹介がちょうど4ページになるようにしました。カタログ感覚でどこからでも読めて、資料としても使えるように」
――本を選んだときの基準は?
「連載していたのが芸能界の旬を切りとる雑誌だから、そのとき話題になっていたものを中心に。でも担当編集者から『開放区』(木村拓哉著)でお願いしますというリクエストがあったときは、書きますと言っておいて『せんせい』(山崎拓の元愛人が書いた暴露本)の原稿にしました。編集者はキムタクだと思っていたらヤマタクが来たという(笑)」
――『せんせい』の書評には爆笑しました。
「あの本のキモはね、政治家の暴露本だからテレビでどんどん紹介されてもいいはずなのに、あまりにも変態の度が過ぎて放送されないところ。つまり、過激な内容が抑止力として働いたっていうジレンマ。オレにとってはそういう、タレント本とテレビの関係も面白いな。諸星くんの『くそ長〜いプロフィール』なんか、ある種の奇書といってもいいくらい面白いけど、絶対にテレビには出せないです。メディアと本の関係も微妙でしょう。芸能界に居るオレが芸能人を俎上(そじょう)にするわけだが、当然、業界内ルールや、業界内のパワーバランスもあるから、それを踏まえて、またそのギリギリのところで書くのが面白いんだけど」
――スキャンダル本じゃなくても、芸能人がタレント本を書評する難しさってあるのでは?
「それは難しいですよ。『本業』でとりあげた50冊のうち3分の2くらいは、実際会ったことがある人の本ですからね。斬り捨て御免、というわけにもいかない。もともと“読みどころ”ありの本だから、斬り捨てるつもりもないですけどね。本の冒頭で書いているようにタレント本が有名税の青色申告書だとしたら、税務署員のオレは大いにハンコを押しているわけですよ。本人が“こう思われたい”と申告していることに対して“認めます”って。必要経費控除の解釈を新たに加えてあげて……。
オレの書評は、芸人として、究極のお座敷芸も目指しているんです。ただヨイショするだけじゃ“お世辞言うな!”って言われるじゃないですか。下手のヨイショじゃあ芸にならない。そういう意味では、ここを読み取ってほしいという意図を組み、本人すら知られざる、ここを突かれたら気持ちいいツボを押しているつもりだけどね」
――読者の興味をそそるツボも突いていて、どの本もすごく読みたくなりますね。博士さんご自身、書評はよくお読みになりますか?
「新聞や雑誌の書評欄は大体読みますね。むしろ本を読むより、書評のほうを、よく読んでいるほどじゃない」
――信頼する書評家は?
「豊崎由美さんとか、福田和也さんであるとか、書き手として認められたいって思いますよ。あと自分がエンターテインメントを批評したり、何が面白いかくみとる作業をするときに影響を受けたのは小林信彦さん。 絶対にこの本を読まなきゃと思わせるのがいい書評ですね。オレもこの本でとりあげた50冊が書店の店頭で動き出すのを期待しながら書いているし、最終的には『おこりんぼ さびしんぼ』を文庫化するのが目的だから。そのためには出版社にも交渉しますよ」
――実は私も『本業』で知ってどうしても読みたくなって、古本屋さんを探して買ってしまいました。この本がきっかけで一冊の名著がよみがえるかもしれませんね?
「それが一番のモチベーションになっていますから。オレにとってはもう、本って印税がほしくて書いているんじゃない。芸能生活のなかで、本を書くことくらい時給が低い仕事はないですもん。本を書くことは、もはや“業(ごう)”ですよ。何か利益を得るために書いたり読んだりするものじゃない。本が好きってそういうことなんですよ。
たとえばアル北郷というだらしない後輩がいるんだけどさ、オレみたいに読書が仕事じゃないから、ほんとうに楽しそうに本を読むの。それを眺めるのも好きなんだよね。人が本を読んでいる姿って、オレにはすごくセクシーに見える」
――本を読む人がセクシーとは……ステキです。
「このあいだ、ヴィクトリア・ベッカムが“今までに一冊も本を読んだことがない”と告白したというニュースがあったじゃない? 本を一冊も読まないなんて、オレにとっては、その人の持つ魅力が崩れ落ちる、地に落ちるような感じ、あんなセクシークイーンですら、その発言だけで色気ゼロ! 何の興味もないな」
――あまり本好きがモテるというイメージはありませんけど(笑)。
「オレは本を読む人に色気を感じるんだよなぁ。評論家の宮崎哲弥なんか見た目はモテそうな男に見えないけどさ、月間200冊くらい本を読む。200冊読むんだと思った瞬間から、その人の輪郭が変わるんです。しゃべっても楽しいし、興味深いし、セックスアピールがあるんですよ。本が好きだからモテる世界があるんですよ」
――獄中で古今東西の書物を読みあさったという博覧強記の人、百瀬博教さんにもそういう色気がありますね。『本業』に出てくる百瀬さんのエピソードは、ゾクゾクするほどかっこいいです。
「文章で読むと文士みたいな人を想像するだろうけど、実物はくだけたジョークばっかりいっている人だからびっくりしますよ。百瀬さんといえば、一緒に古本屋に行ったとき、一歩も動かずに何時間も同じ場所にいたことがあった。それを見たとき、その佇まいだけで見とれちゃう。本の世界に入りこんで、100年前の話でも紐解こうとしている姿が。
百瀬さんはヤクザの家に生まれた人だけど、そこで劣等感を抱かずにさ、暴力と腕づくで解決する世界にいるのに、文学に耽溺したっていう生き方もオレには魅力的なの。それなのに百瀬さんの本って全部初版で終わっているんですよ。この本だけじゃなくていろんなところで百瀬さんのことを書いているのは、文学者としての百瀬博教を浮かび上がらせたいっていうのもあるなぁ。とにかく数奇な人生を送り、話すことの全部が面白いから、会いに行くときは必ずICレコーダーをまわしていますよ」
――ほとんどルポライターですね。
「オレは芸能人ではなくて、芸能界に潜入しているルポライターだって、冗談で言ってたんだけど。最近はもう、本格的にそうなってます。
本を書くのは効率が悪いのに“業”として引き受けようと思ったのは、石原慎太郎さんの言葉がきっかけなんですよ。『本業』にも収録されている百瀬さんの本の解説を読んで直接電話をくれたんですけど、あの石原慎太郎に“お前の文章は三島由紀夫に似てる”って言われたときの、そんなバカなってドッキリ感ったらなかったね。オレは三島由紀夫を読んだことないし、似ているわけがないのは自分でわかるから、買いかぶりであることは十分承知だけど、一介の漫才師が、あの慎太郎に、三島由紀夫に例えられるだけでも、“人は言葉でブッ跳ぶ”瞬間でもあるし、もちろん、大笑いだし、文学者的人生の一ページに値するじゃない。そのセリフを言われた時点で書く仕事を、ちゃんとやっていこうと思ったな」
――今後書きたいテーマはありますか?
「『本業』と同じスタイルで、絶対に当てる自信があるのが育児本の批評。育児本って不思議なのが、子どもが生まれないかぎり一冊も読まないの。育児本って面白いね、って子どもがいないのに言う人は、ほとんどいなんですよ。いざ子どもが生まれるというときにワラをもすがる思いで読むんだけど、何から読んでいいかわからない。オレも手当たり次第に読みましたよ。だから初めて育児本を求める人に向けてのガイド本を書きたい。学問的なのじゃないものを、面白本というアプローチでね。
問題はそういう本を書いたら、オレが子育てで失敗するわけにはいかないところなのよ。友人でタレント本の収集をライフワークにしている吉田豪はタレントが書いた育児本を集めているんだけど、なぜかというと三田佳子の二男みたいな多くの失敗作が出てるからだって言うの(笑)。自分でそのリスクを負うのは大変だけど、これは面白いと思うな」
――『お笑い男の星座2』の書評で重松清さんが「そろそろ浅草キッドはビートたけしを正面から書くべきではないか」とおっしゃっていましたが。
「殿は――ビートたけしは、オレにとって最大の物語ですからね。18歳のとき大学を辞めてフランス座に入って以来、ずっとビートたけしの人生を追っかけているわけじゃないですか。ビートたけしには、日本人全員の物語がありますから。芸能人であるということは、無意識下の他人の物語を背負いながら生きることなんですよ。殿は選ばれし人だから、小説のようであり、一編の詩のような生き方をしていると思います。いつかはオレなりの殿の評伝も書く日が来るのかも」
http://www.ginet.or.jp/sekikanko/tuuhan.htm
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