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(無題)

 投稿者:浜っ子  投稿日:2005年10月10日(月)01時52分59秒
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  オレは浜っ子

プロローグ

 思い返せば暑い夏だった。寮委員長の重責を終え、私は一段落した7月下旬に突如、出身地横浜に帰郷してしまいたくなり、フラッと出て行った。夜の国道1号はすいていて、青信号が延々と統く。一見快適そうなナイトライドも、実は襲い掛かる様々な仕事の重苦、そして糾弾の嵐を撥ね除けての帰郷であった。しかし私が帰郷するに至った真の目的は、仮に作業放棄ではあったとしても決して現実逃避ではなかったことをここに誓う。私は壮大な任務を背負って故郷横浜へと向かったのだった。


弟はふてくされ、おふくろは黙り込み、オヤジが怒った夜

 私が両親の家に行く時はいつもそうだ。大概夜遅くに着き、10年来の友であるポチに帰郷を告げて互いに友情を確かめ合う。そしておもむろに家に入ってうがいをし、メシ食いがてら家族3人に説教をするのだ。しかしこの日は何かが微妙に違っていた。私の並々ならぬ決意が雰囲気をこわばったものにしていたのかも知れない。
 私はいつものように自分が駒場寮問題に取り組む理由を述べ続けた。この闘争に取り組むことが如何に社会に貢献することなのか。自主管理空間=まさに自分たちの手で創造していく可能性を残す場としての駒場寮の意義が、権力によってありとあらゆる場所に管理統制が行き届こうとしている社会の現状にあって如何に大きいものであるか。そのような管理統制された社会の中にあってなお守り続けられた駒場寮を、単に学生寮として規定するのではなく、如何に社会の中の自主管理空間として位置付けるか。即ち如何に特権性を排し駒場寮を開放していくべきか。そして様々な人との交流から社会の中に自己をどう位置付け、自分はどうあるべきか。その問い掛けからのみエリート予備軍=東大生は変わり得るし、権力者の論理に搦め捕られずに「どちら側」に立つのか、人を踏み台にしてさらに体制内上昇していくのか否か、が決まっていくのではないか。東大生が変われば、社会にもいい影響こそあれこれ以上の悪影響はない筈だろう。このような問題意識を我々学生に生じさせる契機として自主管理空間=駒場寮は絶対に残すべきだし、残らねばならない、権力が暴力によって潰しにかかって来るならば飽くまで住み抜き闘争を闘い抜き、それと実力で闘うまでではないか。
 我々寮生が学内に於いて学生自治の重要性を訴え、駒場寮の存続を掲げているのもこのような社会への貢献を考えているためであって、学生、とりわけ東大生の特権性をさらに塗り固めるものでは決してないのである。
 「でもね、そんな立派なこと言っても誰も聞いて呉れなきゃ意味ないでしょ。まずは卒業してちゃんと働きなさい。それから影響力を持てるようになってから堂々と意見をすればいいでしょ。そうだ、評論家にでもなれば?」
普段は寮も大学も辞めて帰って来いと言うおふくろはたしなめるように言った。
 「そんなんじゃ駄目なんだよ。さっさと卒業して、どうやって寮が残るってんだ。それに社会を変えていくにしたって何も影響力を持つような立場からでなくたって出来るんだ。寮の先輩には新宿の野宿労働者と一緒に現場で闘っている人もいるんだよ。寮潰しなんてあからさまな権力による暴力じゃないか。それに正面から闘う主体が必要なんだよ。その主体に自分はなるんだ。」
「差別主義者だったあんたがそんなこと言うようになるとは思わなかったわ。」
「オレだって反省したんだよ。」
沈黙が暫し続いた。
「でもいいじゃん、寮汚ねえし。」
「お前はどういう立場でモノを言ってるんだ。お前は「どちら側」に立つんだ!?」
「分かんねえよそんなの。大体止めろよ、危ねえし。」
「弱いものの味方に立たないのか。お前みたいな反革命は変わんないんならいるだけで有害だから消すしかない。殺す。」
「だって分かんねえだからしょうがないじゃん。殺すとかいってやっぱ危ねえよ。」
「殺すったってあんた……」
おふくろも不安げに口を挟む。
「反革命はいるだけで有害なんだ。そりゃ変わるようにしなきゃ駄目だよ。でも変わんないんだったらむしろ今ある暴力や抑圧を固定化することになるじゃないか。そんな奴は殺すしかない。何か違うか。」
「でも殺すのはなしだぜ。」
「殺す殺さないに関わらず、お前は殺される側にいるんだぞ、今。」
弟はふてくされた。
「大体、お前は東南アジアに興味があるとか言って、それが無自覚のままに日本帝国主義のアジア侵略のお先棒を担ぐことになることを分かっているのか。お前は侵略の手先になるつもりなのか。」
「そんなっもりな訳ないだろ。でも日本軍はラオスでは友好的だったらしいよ。」
「それが「大東亜共栄圏」の虚像なんだと言ってるだろうよ。そういう歴史の見方が染み込んだお前は現在進行形の経済侵略にも喜んで手を貸していくんだよ。ベトナムでは戦闘ではない侵略=飢餓輸出の形で200万人が餓死したことをお前も知っとくべきなんだよ。そうゆう基本的な考え方が権力の論理に毒されてるからお前は駄目なんだって言ってるんだよ。」
「そんなこと言われたうて分かんねえよ。」
弟はふてくされるばかりだった。
「殺すだのなんだのってこにやろ」
怒りに燃えたオヤジが突然口を開いた。
「何が「どちら側」だ、何が弱い立場に立つだ。そんなこと言ったって結局お前は東大生なんだろ。東大生なんて権力の凝り固まったヤツじゃないか。偉そうな口聞くな。寮なんか出てさっさと大学出ちまえ。社会に出ないで働いてないお前の方がよっぽど有害だ、学生の分際で。ただでさえ安い学費で社会にぶら下がってるんだ、お前は。」
「そうゆうオヤジはベトナム戦争の時何してたんだよ。」
「会社でちゃんと働いてたんだよ。」
「何がちゃんと働いてたんだよ。何もしてなかっただけじゃないか。」
「一人で何が出来るってんだ。」
「だからみんなでやろうって言ってるんじゃないか。」
「だれもやりゃしねえよ。寮を見ろよ、誰がやってるってんだ。だからお前がそんなにやってるんじゃないか、バカ。」
「オレだけでやってる訳ねえだろ、バカ。寮生がたぐさんいるから寮が残ってんだよ。知らねえくせにゆってんじゃねえよ。」
 「ああそうだろうよ。どうせバカが祭り上げられてるだけだろう。とにかく偉そうな事言うな。そんなに偉そうにしたいなら東大辞めてから言え。東大生なんて特権的なんだ。マリナード(註:横浜の関内駅の地下街。ホームレスが多く住んでいる)にでも住んでから言え。」
「お前に言われる筋合いじゃねえ。自分の現場で東大生を変えるために闘ってんじゃねえか。お前みたいな反革命は殺す。寮潰れたら辞めてやるよ、そしたら最初にお前を殺してやるよ!」
怒りのあまりオヤジは2階に行ってしまった。
ウチの家はいつもこうだった。私とオヤジとが際限なく対立し、どちらか一方がいなくなるしか解決策がなかった。おふくろが止めに入っても駄目だったのがますます酷くなって、結局私が家を出る以外になかったのである。
「でもねえあんた、殺すとか言うのはやっぱり駄目よ。」
そんなことは分かっている。メタファーとして使う中に若干の感情が移入されただけのことだったのだ。
「でも権力に刃向かって闘うことは重要だよ。」
「でも誰も聞いて呉れないんじゃ意味ないでしょ。」
「火炎瓶とかいって危ねえよ。やだよそんなの。」
「あんた、読売を止めるんだってヤクザみたいのが来て大変だったんだから。そんなに何でもかんでも直ぐに出来る訳ないのよ。」
「今直ぐにとは言わないよ。」


母校へ

 翌日、私は母校に足を運んだ。別に久々という訳ではない。年に1度くらいは何をする訳でもなく顔を出していた。「社会党なんかもう駄目だ」と言っていたどうも気になる教師がいるからだ。しかし今年は弟が卒業してしまったので、多少の行きづらさを感じての訪問となった。
 しかし最近の緑高の女の子は何とまあ可愛いことか。一昔前とは丸っきり違った雰囲気を漂わせた女子の多さに暫し目を奪われたのは、何も歳のせいだけではなさそうだ。思わず何をしにきたのか忘れてしまうところだった。いや、私は図書室に行こうとしているのだ。誰かは分からないが図書室に私の載った記事を貼った教師がいるらしいという話を聞いたのである。私と親しい教師なんてそう多くない。一体誰が?その教師を通じて生徒をオルグし、東大合格者全員を駒場寮に迎え入れる。さらに他の生徒も駒場寮についての理解を深め、支援者として育て上げる。そして決戦状況になればその教師を先頭に戦闘的高校生らが駒場に結集する。母校は、そうは言っても毎年誰かしら東大合格者を出している。母校を今まさに駒場寮防衛の拠点とする。ごれこそ私が密かに胸に秘めて遠路横浜まで出向いた真の目的であった。
 なんと図書室は閉まっていた。「図書整理期間中」の掛け札は遠路遥々やって来た者にとってあまりに無情だった。私はドアのガラスから中を覗いてみた。誰もいない。いつものようにドアをこじ開けるか。いや、母校に来てまでそれではいかん。それでは二セ左翼になってしまうではないか。私は苦悩の末、司書室のドアノブに手を掛けた。
「あの、すいません。今日図書室は閉まってるんですか。」
閉まっていると書いてあったが、他に気の利いた切り出し方が思い付かなかったのだ。
「御免なさい。今日は臨時休館なんですよ。」
中から若い女性の声が返ってきた。若い女性?はて、そんな司書が高校にいただろうか?私は声の主を確かめずにこの場を去る訳にはいかないという使命感に駆られた。
「あの、実は僕の載った記事が図書室に貼ってあるとかないとかで。ちょっと来てみたんです。」
すると中から声の主が現れた。歳は20代半ばくらい、身長は私よりやや低いくらいだから150何センチといったところか。着飾らない、しかし笑顔の中にあどけなさすら感じ取れるような可愛らしい司書さんだ。知らない。こんな人が司書だったのか?私が高校生の時にはもっと年を取ったおばさんだったと記憶しているのだが。とにかく初対面らしいことは間違いない。
「あら、山内君じゃない。」
何故?私はこの人を知らない。なのに何故この人は私を知っているのだろう。しかもこんなに親しげに。公安は我が母校にも潜入してきているのか。私は一抹の不安と期待を抱かざるを得なかった。しかし、こうした場合、一体どのような対応を取ればよいのだろう。暫し思案した挙げ句、一応面識はあることを前提にして会話することにした。忘れてましたではまずいだろう。
「あの、僕が載っている何かの記事が高校の図書室に貼ってあって、しかも、ウチの卒業生です、頑張って下さい、とか書いてあるとかいう話を小耳に挟んだもんで、何が貼ってあるんだろうと思って来たんです。それで、もしよかったらお茶でも、あっいや、よかったら誰が貼ったのか教えて貰えませんか。その先生と駒場寮の話をしたいと思ったんですけど。」
「ああ、AERAの記事ね。」
「はあ、AERAの記事なんですか。あの反革命の放火記事ですか。」
「そんなのじゃなかったけど。何か、東大が新入生に変な警告を出したとかいう……。」
「あ、それじゃ3・10対合格者恫喝書類のことですね。あれはふざけてるんですよ。合格して早々、新入生を恫喝して思想統制しようという、大学のファシズムが満天下に明らかになった決して忘れてはならない―大攻撃なんです。大学が権力をかさにきて剥き出しの暴力を学生に突き付けたんですよ。あれじゃ合格者が合格取り消しになるかも知れないと思って何も出来ないじゃないですか。署名するだけで合格取り消しになると思ってた人もいるんですよ。で、記事はどこですか。」
少し興奮してしまった。これも若気の至りなのだろう。
「記事はね、ここよ。」
そう言って司書さんは図書室のドアに手を伸ばした。記事はドアの内側に貼ってあった。
「あれ、ドア開いてたんですか!?」
「ここは二セ左翼が蹟凰するどこかとは違うのね。開けておいても大丈夫よ。」
「僕もここの出身ですから大丈夫ですよ。」
「別に山内君が二セ左翼だと言ってるんじゃないわよ。」
悪戯っぽく笑う司書さんの笑顔に、私はまたしても目的を忘れるところだった。
「記事はここよ。」
「何々「緑高の卒業生で、東大で頑張っている山内恵太君が載っています。先輩、頑張って下さい。」だ!?(くーっ、高校時代にセンパイとか呼ばれたかったぜ。名実共に人の視界に入ってなかったからなぁ。)なるほどね、やっぱり僕のことを知ってる先生なんですかね。でもわざわざ東大でとか言われるとちょっと進路指導のネタみたいでヤですけどね。でも高3の時の担任はすごくむかつくし、一体誰が貼ったんでしょう?」
「女の先生だったと思うんだけど……。文系の人で、髪が長めで、え−と。」
「ひょっとして国語の先生ですか。」
「そうだったかも知れないし……。」
「もしかして英語の先生とか。」
「そんな気もするし……。」
「(それじゃ分かんないよ。)ということは五十嵐先生か今村先生ですね、きっと。」
「きっとそうでしょう。」
「じゃ、職員室に行けば会えますかね。」
「えっと、いや、お二人共今年の4月で転勤なさったわよ。」
何ということだ。記事を貼った教師をオルグして駒場寮シンパの生徒を多数獲得し、決戦ともなれば母校から教師をはじめ最大動員100名を勝ち取るという私の壮大な計画はどうしてくれるというのか!?権力は既に母校にまでも手を回していたというのか。私は寮委員らの糾弾の視線をかいくぐり、やっとここ横浜の母校に辿り着いたのだ。このまま手ぶらで帰れ と言うのか。私は絶句した。
「やはり憧れの先生だったんですね。」
「あっいや、お土産がないのに寮に帰れるか、と。」
「そんなに怖い所なんですか、駒場寮は。」
「あの、あんまり誤解しないで下さいね。そりゃ駒場寮にだって女の人も出入りしますよ。女子入寮だって始めてますからみんなそんな血相変えてなんてことは、今はもうないですよ。」
「知ってますよ。だって私も3回くらい駒場小劇場(こ行ったことがありますから。私はお土産がないと駄目なくらい寮生はガツガツしてるのかと思って。違いますよね。」
何と司書さんは駒小に行ったことがある!?目的変更、司書さんをオルグすぺし!
「駒場小劇場に行ったって本当ですか。」
「ええ。ところで寮生はやっぱりガツガツしてるんですか。」
妙なことに興味を示す人だな、不意を突かれた。Γあっえぇと、それは正しいです。ところでいつ頃だったんですか。」
「いつだったかしら。加藤登紀子さんが歌うとか言ってた頃なんだけれど。」
「じゃあ93年の秋ですね。寮の中には入ってみなかったんですか。」
「寮の中には入りませんでしたけど。寮の間を通って駒場小劇場に行ったんです。木々がいっぱい生えてて、東京なのに緑が多いなと思いましたよ。寮にも草が生えてて歴史を感じましたね。」
「……てゆうか、ツタが巻き付いていたんですね、それは。屋上には木も生えてますけど。」
「ええ。建物も古いけどすごく丈夫そうで、重みがあって好きですよ、ああゆうの。」
「大学は老朽化しているから潰すと言ってるんですけど、冗談じゃないですよ。建物にはヒビ割れはないし、駅からキャンパスに入って最初に時計台の建物ありますよね、あれと同じ頃に建てられたんですよ。そっちを残して寮は潰すんじゃ、理由になりませんよね。しかも寮は関東大震災後に設計されたんで、耐震設計が優れているらしいんですよ。鉄筋なんか戦艦の鋼板が入ってるとかで。」
「今時ないですよね。ここの校舎の西館なんか、オイルショックの頃のだからポロポロですよ。」
「1年生の棟ですよね。開いたドアが閉まんないんですよ。閉まったドアが開かないと結構笑っちゃいましたよね、特にむかつく先生が出れなくなったりすると。」
「神奈川って県の財政が多い方じゃないですか。なのにもう予算はつかないんですよね。バブルの時は乱発して、ほら、隣の学区の平沼高校なんか高層化してエレベーター付きになったでしょ。うちでもそんな話はあったんだけどもう予算つかないんですよね。同窓会なんかが募金集めてやろうとしてたけど、最近は話も聞かなくなっちゃった。」
横浜は阪神大震災を教訓として、公立学校を拠点に災害避難場所の強化を図っている。神戸にも、地方自治体として真っ先に救援隊を送り、土木工学が専門だという市長自らが陣頭指揮を取っていたらしい。しかし、防災都市を目指すのは大いに結構だが、その財源として文教予算は大きく削られてしまった。もっとも母校は県立なので直接関係はないが事情は横浜市に準ずるだろう。
「バブル後で、しかも震災ですか。何かどこも同じですね。うちの大学でもなかなか予算がつかないとか言っていて、教授会は苦労してるみたいですけど。まぁ、うちらには好都合ですけどね。」
「大体、予算が付きづらいのに無理して壊すことないのにね。無駄使いでしょ、それって。」
「そうですよ。東大ばっかり予算取ってもしょうがないし。大体学生のためにならないんですから止めりゃいいんですよ。」
「そう、それなんだけど、学生のためっていうのがよく分からないんだけど。テレビで山内君がいろいろ言ってたけどいまいちよく分からなくて。寮存続の主張の理由は何なの?」
「あぁ、よく言われるんですよね、お前のテレビで言ってたこと全然分かんないって。あのですね、やっぱり自主管理空間だということに尽きると思うんです。寮生をはじめとする寮に関わるもの、だから寮当事者と言っていいと思うんですけど、その人達の手によって全てが決められ、実行されていく。まさに当事者が決定し、実行していく。こんな単純で当たり前なことが実は滅多に出来ないようにされているのが今の社会じゃないですか。そこには統制されて、管理されて、縛られっぱなしで自由のかけらもない。社会的に見ても多くない、そうじゃない場所が駒場寮なんです。だから残したいんです。別に東大生の特別な場所なんじゃなくて、もっと寮を開いていろんな人が繋がれる場にしたいんです。それと、大学からの一方的な押し付けにハイハイと従うんじゃなくて、自分でモノを言う?っていうか上からの管理には反対していくような人間が育つことが必要なんじゃぁないですかね、特に東大生の場合。そうゆう考え方っていうのは自主管理をしているという実績に裏付けられるし、実際にそれを行う場所が必要ですよね、しかもそれはエリートのおままごとではない、社会との関係性を考えることの出来る場所でなければ意味がない。となると、駒場寮はそれにとってすごくいい条件を潜在的に兼ね備えてると思うんです。」
「すごいね。でも新しい寮がどっかに出来たからもう潰してもいいとかテレビで言ってたけど。」
「それはですね、三鷹に新しい宿舎が作られてるところなんですが、まず、これは完成してないんです。というのも駒場寮を潰してからじゃないとどうも駄目らしくて。それから、話すと長くなるんですけど、そもそも三鷹に新しい宿舎を建てるのと駒場寮を潰すのを一緒にしてることがおかしいんですよ。だって誰も廃寮に賛成した訳じゃないんですから。それにこの計画が決まったのも、寮生に隠してたんですよ。こ
れじゃ廃寮には賛成しないですよね。それから新しい宿舎の問題もあるんですよ。例えば遠い。バイトが出来なくなるし。高いのも問題です。駒場寮の3〜4倍になるんだから。」
「お金のない人だっていっばいいるでしょ。」
「そうです。僕も仕送り0で学費も貰ってないんです。」
「東京でよくやっていけるね。」
「えぇ。それとやはり個室だから。」
「個室ならいいんじゃないの。勉強もし易いし。」
「確かに個室の方が点取る勉強はし易いでしょうね。でも勉強するってそんなんだけじゃないんですよ。みんなで議論する中で得られるものは多いですよ。だって自主管理とか言ったってやっぱり共同性の上に成り立っている訳ですからね。むしろ東大生はそうゆうものを勉強しろと。」
「東大生に言われると説得力ないけど。」
「ですね。でもやっぱり三鷹じゃ代わりにはならんのですよ。」
「山内君は三鷹に移らないの。」
「僕は三鷹には移りませんよ。それに入れて呉れといったところで入れないし、横浜出身じゃ。親を基準にしてること自体、僕はアホかと思いますけどね。いつまでもガキじゃないんだし、だけど働いて全部稼げなんてとても人に勧められるもんじゃないですよ。住環境くらい国が別け隔てなく保障すべきですよ。私としては必要な人に駒場寮を、を心掛けてますよ。」
「何かすごいことになっているみたいね。また駒場小劇場に行くかも知れないし、頑張って下さいね。健康には気を付けて。」
「健康といえば、電気止められて寮生で集団風邪になってしまいましたよ。大学は本当むかつきますね。僕それじゃ社会の先生ンとこに行きます。どうも有り難うございました。」
司書さんのオルグは一定成功したようだ。しかし、こんなところに寮を知っている人がいるとは結構驚きだった。まして廃寮問題についてこれ程知っているとは。テレビもあれだけ出ていると一回くらい見ている人が意外と多いようだ。


社会科教師の嘆き

 ノックしようにもドアが開けっ放しになっている。ここが社会科教室だ。
「あの、浅田先生はいらっしゃいますか。」
「もうじき戻って来るよ。どうぞ。」
「失礼します。」
顔は知っているが習ったことのない教師が一人。向こうは私のことを知っているようだ。
「……」
「東大はどうだい?」
「許し難いです。」
「……」
期待に沿わぬ答えだったようだ。
「あ、浅田先生こんにちは。」
「おや、山内じゃないか。どうしたんだい。」
「えっいやあの、ちょっと横浜に来たもんで。緑高の図書室に駒場寮の記事が貼ってあるというのを聞いて、誰が貼ったのか聞きに来たんですけど。司書の人に聞いたんですけど、もう転勤しちゃったみたいで。」
「駒場寮も大変みたいだな。電気が止まったらしいけど、どうしてんの。」
「いえ、寮の裏にある寮食堂だけ電気が止められていないんですよ。そこから太い電気ケーブルで寮に直接流し込んでますんで、一応電気はあるんですけど、容量はとても足りたもんじゃないですね。蛍光灯は暗いし、電熱関係は全部駄目です。電気が止められた最初の頃はローソクでしのいだり、冷蔵庫はカビだらけになるし、大変でした。自慢じゃないですけど僕の冷蔵庫まだカビてますよ。」
「東大もやるね。そんなことして大丈夫なのかね、東大は。」
「あれ以来、何でもアリですよ。東大がそこまで腐ってるというのがよく分かりましたよ。渡り廊下は壊すし、電気ドラムは盗むし、ガラスまで叩き割るし。ゼイ肉で押す奴までいる。」
「俺もテレビでよく見たよ。でも学生の雰囲気はどうだい。やっぱりそうゆうの見ても無関心なんじゃないの。」
「う―ん、確かにこれだけやられている割りにはおとなしいってゆうかやっぱり無関心なんですかね。でもこんな事態になったからこそ、決心を固めた人も実は多いんですよ。僕らの周りにいる連中なんてのは大抵がそうゆう人ですよ。」
「とは言ってもね。時代の流れってのをよく感じるよ。緑高でも同じだからね。山内の二つ上くらいで劇団高木ブーってのをやってた生徒達は知ってるの。」
「劇団高木ブーってのは聞いたことありますけど、誰が何をってのは知りません。」
「あれなんかすごくバイタリティーあったよね。でもあの後といえば山内がすごい生徒だと思ったくらいでもうそうゆう人は出てきてない。粒が揃ってて面白みのない生徒ばっか。そうゆう生徒が大学に行くもんだから、大学も画一化されたつまらない学生ばっかになって、寮の問題とか言っても全然関心を持とうとしないんじゃないかって思うんだよ。」
「(オレがすごい生徒だったって何だ一体?欠席の回数か教師への態度かね?)確かにそうだと思いますよ。でもですよ、やっぱりそうゆう流れがいいか悪いかは別の問題ですよね。僕はそれがいいとは決して思いません。でも放っておくとそうなりがちなんでしょう。だからそうゆう学生の雰囲気ってゆうのを変えていくためにも駒場寮問題を切っ掛けに働き掛けていくのが大切なんだと思うんですよ。だから僕は聞いて呉れる人が少なくても止めようとは思わないんです
 

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